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浄瑠璃坂の討入り 忠臣蔵への道
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ペーパーバック : 240 ページ作者 : 竹田 真砂子 （著）
出版社 : 集英社
コレクション : 歴史・地理・民俗の通販
ISBN-10 : 4-08-781169-7
フォーマット : 紙の本
平均的な顧客フィードバック : 5 5つ星のうち（1人の読者)
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もう一つの「討入り」から見えてきた昭和 ** 元禄の世に討入りで名を轟かせた赤穂浪士。その30年前、寛文12年（1672年）、江戸で評判になったもう一つの討入りがあった。「浄瑠璃坂の仇討ち」である。討ったのは、奥平源八。討たれたのは、奥平隼人。この事件の首謀者に対する幕府の処分は、赤穂浪士に比べると、遥かに甘い。切腹はなく、遠島を申しつけられた者も、6年後に恩赦が行われている。悲劇の方が一層記憶に残りやすいという事は、もちろんあるが、なぜ、本懐を遂げ、命も保たれた一件よりも、一同切腹を命じられた赤穂浪士達の事件の方が有名になってしまったのか？興味をそそる問いかけである。それにはまず発端から、という事で、延享元年（1668年）より、筆が起こされる。宇都宮藩奥平家当主が他界した。家老の一人、奥平隼人には、位牌に書かれた亡君の戒名の読み方がわからない。もう一人の家老・奥平内蔵允が、読んでみせる。すると、隼人がこう揶揄する。「内蔵允は、武士というより、出家といった方があたっている」。あなたは武士らしくないな、と言ったのだ。むっとした内蔵允も、こう返す。「某（それがし）が出家ならば、御貴殿は、沙弥ではないか」。沙弥とは、剃髪したものの、正式な僧の条件を満たしていない者の事をいう。「あなたは、私よりもさらに未熟じゃないか」と返されて、隼人は言う。「俺が沙弥なら、お前は小僧だ」。更にこの後もう一悶着あり、内蔵允が隼人に斬りつけ、逆に深傷を負う。自邸に戻った内蔵允は自刃。新当主となった奥平昌能は、内蔵允を、「乱心によって主家を窮地に陥れた不心得者」とし、嫡子・源八への遺領の相続を認めず、改易追放とする。切腹させるべきと意見が出た隼人に対しては、「是非なく抵抗しただけだからお咎めなし」とし、壬生の城主に保護する手はずをつける。かくて仇討ちへの幕が、切って落とされた。しかし、両者の言い合いは一体何なのだ。二人とも、隼人35才、内蔵允39才と、今の感覚で考えても、立派な大人。それぞれ家老だというのに、我慢ができないのか。まるで子供の喧嘩じゃないか。浅野内匠頭の立腹の理由さえ、単独では「説得力がない」と見られたのか、「妻あぐりを差し出せと言われた」「賄賂を要求された」「塩の製法をめぐる争い」など別の推測が追加されているのに。これが理由で仇討ちをしたと申し開きをして、果して世間が、いや、そもそも同志が納得するのか。私は大いに不満だった。理不尽だと思った。ところが、このやりとりを探ってゆくと、奥平藩内の対立、そして遠因に、武断政治から文治政治へと移り始めた江戸幕府の事情にまで話が及ぶ。一見子供の喧嘩のようなやりとりには、幾重もの理由が積み重なっていた事が明かされてゆき、ようやく得心がいった。綱吉の吉良家に対する対応と比べた時、共通する暗君の要素を嗅ぎとった。やはり、歴史はどこかで繰り返す。そして、メインの問い。浄瑠璃坂が、赤穂浪士の影に隠れた理由については、著者のよく知る歌舞伎の話から、書き起こされる。いずれかが称賛され、いずれかが忌まれた。その裏には、守るべき存在を持つ行政側の思惑が絡んでいた。つまり民衆は行政側に知らず、操られていたという事になる。「心を人に操られる？そんな馬鹿な。いくら何でも、作為を見抜けないなんて。たとえ昔はそうだったとしても、今は」。私はそう反論したかった。でも、できなかった。斉藤麟氏『昭和名せりふ伝』で語られる、敗戦後の日本におけるもう一つの人心操作を思い出したから。やはり歴史は、ここでも繰り返していた。遥か昔の事を読んでいたつもりが、終わってみると、喉元に刃の跡がついていたことに気づき、はっとする。そんな心地のする一冊だった。初めて読む人にも、わかりやすい言葉で書かれた、書き下ろしのノンフィクション。
